“カチャ…カチャ…”
ホッチキスの音が、部屋に響く。
「…終わりました」
ホッチキス済のプリントの山を束ね、常緑学園高等部・生徒会書記の斉藤暁幸(さいとう あきゆき)が、隣にでーん!と座っている同・生徒会会長、山上将士(やまがみ まさし)に向き直った。
「あ!アッキー

これもお願い

」
会長が思い出したようにファイルからもう一束取り出して、暁幸に差し出す。セリフの語尾に音符やらハートやらの気配を感じるも、その抑揚のない話し方に“気の所為だよな”と首を振る暁幸。
「はい、はい」
終了した分をトントンと揃え、会長から10枚程のプリントを受け取り、
“カチャ”
とホッチキス止め。
「なんで、ここまで仕事を持ってくるんです?」
やれやれ…と暁幸が溜息をついた。
ここは、寮の一室。部屋の前に掛けてあるネームプレートには『山上将士・斉藤暁幸』の文字。
「だって、遅くまで学校にいたくないじゃん?」
膨れっ面の暁幸をクスクスと見ながら、将士が答える。
「アッキーは生徒会室でやりたい訳?」
「そりゃそうでしょう!」
ドサッ!とプリントの束を将士の前に置く。
「学校だと、副会長だって他の生徒会メンバーだっているのに…」
「副会長、いるじゃん」
副会長は副寮長と同一人物だったりする(^^;
「寮に帰ったら、副寮長としての仕事が忙しくて、手伝ってもらえないじゃないですか!」
“結局、俺一人で貧乏くじなんだから!!”と2年生の暁幸が3年生の将士を睨みつけた。
「部屋割りだって、俺、ホントだったら2階の2年エリアなのに…」
3階建ての常緑寮。1階が1年生、2階が2年生、3階が3年生の部屋になっている。
「アッキーが2階にいたら、仕事、はかどらないじゃん?」
ニッコリ笑いながら、置かれたプリントを入れるファイルケースを探す将士。そう。本来なら2階エリアにいる筈の暁幸を“仕事の潤滑化の為”とかなんとか言って、3階…しかも、自分の部屋への同居を許可させたのは、会長本人だったりするのだ。
「だから、“貧乏くじ”って言うんです!」
「そーぉ?」
ムキになる暁幸とは対照的に、相変わらず抑揚のない話し方な将士。
「授業で分かんなかったとことか、教えてるじゃん?」
暁幸の苦手科目は“世界史”である。
「副会長がね!」
将士の苦手科目も“世界史”である。
「夜食とか、こっそり、一緒に食べてるじゃん」
夜の10時以降の飲食は禁止である。
「買出しは俺でしょ?」
勿論、外出も禁止。
「毎朝…」
朝は6時起床。
「起こしてますね。俺が!」
暁幸は、目覚ましより早く起きる。
「…えーと…えー…と…」
抑揚の無い声同様、寝惚けたような表情のまま、利き手の人差し指でコリコリと額を掻く将士。
「まったく…」
そんな将士を見て、暁幸が笑い出した。
「もう、いいですよ」
「アッキーぃ…」
「なんですか?」
「見捨てないでね…」
「捨ててませんよ」
だるそうな口調の端に、自分に対する好意が見え隠れするのに気付き、暁幸がクスッと声を漏らす。
「あ!アッキー、俺の事、バカにした!」
「してませんよ」
「役に立たないって思ってる!」
「思って…る、かも…」
ペロリと舌を出す暁幸を見て、将士が膝を抱え込む。
「…いーんだ…。後で、健ちゃんと良ちゃんに言いつけるから…」
“健ちゃん”は副寮長、“良ちゃん”は寮長。この二人を“ちゃん付け”で呼ぶのは、将士くらいだ。
「言いつけてもらっても結構ですけど、味方はしてもらえないと思いますよ」
そりゃそうだ。
「アッキー」
「はい?」
「たくましくなったね」
「会長のお陰です」
にっこりと笑顔で言い返したところで、
♪♪♪♪♪
午後9時。点呼の音楽が流れた。
「会長!」
立ち上がる暁幸に、
「まだ平気だよ」
と缶コーヒーを飲む将士。
「どうせ、1年生からじゃん、点呼。ここまで来るのにはまだ当分かかるさ」
3階の端っこの部屋なのだ、ここは。その奥に寮長・副寮長の個室があるだけだから、点呼の際は実質上、ここが一番端となる。要するに、一番最後の点呼なのだ。
「俺、先に出ときますから」
クルリと向きを変える暁幸を見て、将士が慌てて、缶コーヒーを飲み…、
「俺も、行くってば!」
…飲めなかったりして…(^^;
「あ!」
将士の顎からしたたるコーヒー。
「何やってんですかっ!?」
ダッシュで戻る暁幸。その目の前には、無残にも茶色のドット模様のプリント達。
「なんでケースに入れてないんです!?」
「…見当たらなくて…」
苦労が水の泡。
「か〜い〜ちょ〜お〜!!」
「ごめん!ごめんよ、アッキー!」
抑揚のないまま必死に謝る将士と、脱力感いっぱいの暁幸。
もうすぐ、点呼がやってくる。
3年生と2年生のコンビです。
バ、バカじゃないのよ!ちょっと感情の起伏がわかりにくいだけなの、将士くん。
でもって、仕方ないからしっかり者になっちゃっただけなの、暁幸くん。
ちなみに、寮長と副寮長は将士くんとはクラスメートです。
ま、その辺は追々…。