2008/04/23 (Wed) 00:07
点 呼(後編)

「マー坊!暁幸!」
 点呼を取りに来た二人が“将士・暁幸”の部屋に到着した時、ドアの前には誰もいなかった。ま、いつもの事だから“クリス・恭平”の時のように慌てたりはせず、ノックをしながらドアを開ける。
「何やっとんねん!?」
 言いながら、サッサと部屋の奥へと異動する良輔。ドアの中、ロフトベッドでその下に机と収納スペースがあるのが常緑学園・学園寮寮室である。向かって左が暁幸のスペース。右が将士のスペース。その中央に置かれた折りたたみ式のミニテーブルを挟んで、オロオロする将士と片手に書類の束、片手に雑巾を持った暁幸がてきぱき動いていた。
「会長がコーヒー零しちゃったんですよっ」
 強い語尾と共に、将士をキッと見る暁幸。
「だから、“ごめん”って…」
 言葉に抑揚は無いが顔は真剣な将士が、入って来た良輔と健一郎に救いを求めるかのように視線を送ってくる。
「それって、明日の予算委員会の?」
 暁幸の持っている書類を指差して健一郎が問い掛けた。
「えぇ…」
 頷くと同時に溜息の暁幸。
「全滅か?」
 立っていた窓際から覗きこんでくる良輔に返事を返す気力も無く、暁幸が二度目の溜息をつく。
「中・高合わせて同好会やら入れると50近くあるからな、ウチの“部”…」
「約50部か…。原稿は?」
「それは、無事!」
 項垂れていた将士の顔が、自慢気に輝く。その将士に手を差し出す良輔。
「…?…」
 首を傾げながら、会長が寮長の手に手を乗せる。
「“お手”ちゃうっ!!」
 “全く、もう!”と手を振り払い、
「原稿、貸せ!コピーしてくる」
「あー!原稿…」
 バツが悪そうに頭を掻く将士。
「無事なんやろ?サッサと渡せ!」
 イライラし始めている良輔に、将士がチラチラと暁幸を見る。
“パコッ!!”
 不意に、コーヒー色のドット模様の書類の束で、良輔が将士の頭を一撃。
「痛いよ、良ちゃん」
「お前、偉そうに言うといて、原稿持っとるの、暁幸か!?」
「…うん…」
 恐る恐る暁幸を見る将士。あえて無視の暁幸。
「アッキー、原稿は?」
 暁幸スペース側にいる健一郎が声をかける。
「机の上の緑のクリアファイルの…」
 自分の机を指差す暁幸の手が止まった。
「…何か、聞こえません?」
 指は机を指したまま、視線がいつの間にか開け放たれている窓へと移動する。
『ったく!なんでお前まで来るわけ? I do not understand a meaning.』
 聞き覚えのある声に、
『The reason is because it does not want to think about an excuse. …にしてもやな』
 同じくどこかで聞いた声。
「くっくっくっ…」
 窓に一番近い位置の良輔が笑いを押し殺す。
『それにしても、やな。なんか、高くない?』
『It is a hesitation of the mind. 暗いからじゃん?』
『…そーやろか…?』
 近付く声と怪しげな物音。笑いをこらえる寮長・副寮長とは対照的に、何事かと将士と暁幸が窓を凝視している。…そんな中、窓枠に白い手が掛かり、
「ひゃっ…」
 悲鳴を上げそうになった暁幸の口を健一郎が手を当てて塞いだ。
「…良ちゃん…。何やったの?」
 小声で将士が問い掛ける。
「シーッ!」
 口元に人差し指を当てる良輔の脇、
「よっこらしょ!」
 ほんのり茶色の金髪が姿を現した。
「…あ、あれ?」
 首を傾げるクリス。そのすぐ後ろの縄梯子最上段で、
「なんで!?」
 恭平が落ちそうになりながら、前に習えで首を傾げる。
「ほい!ご苦労さん!」
 恭平を手助けしながら、良輔が笑った。
「ここ…どこ?」
 キョロキョロと見回すクリスの目の前に、
「はい。抜け出したバツ!」
 健一郎が暁幸の机の上に置いてあったグリーンのクリアファイルを差し出す。
「ここは、お前等の真上の部屋や」
 “お前も同罪!”と恭平の背中をポンと押しながら良輔が言う。
「反省文は免除したるさかい、コピー、50枚ずつして来い!」
「なんで?」
「説明は後!それとも、反省文、原稿用紙20枚の方がええか?」
「コ、コピー、行ってきまーす!!」
 戻って来たと思いきや、すぐさまドタバタと出て行くクリス&恭平。二人を見送り、
「あいつらが戻ってくるまでに、片付けるぞっ!!」
 散らかったコーヒーの缶を拾って良輔が声を上げた。
  
 コピー機は1階から廊下続きの別館、食堂の隣の作業室にある。面倒だが、反省文20枚よりずっと楽だ。別館に住み込みの寮母に声をかけ、作業室の鍵を受け取ると、二人は2台あるコピー機に二手に分かれてコピーを始めた。
「…クリス…」
「Yes?」
「それ、どないするん?」
 コピー機の作動音に声をひそめながら、恭平がクリスの胸元を顎でさす。
「どうって…。ま、なんとかなるっしょ!」
 ふっくらと膨らんだ胸元。ポンポンと軽く叩いて笑うクリス。
 50部のコピーは、もう少し、時間がかかりそうである。
  
「悪かったな。部屋に居らんで…」
 寮長室で貴弘に付添われた祐人に“宿泊届”と“入寮申込書”を渡しながら、良輔が笑った。
「何かあったんですか?」
 誰もいない寮長室・副寮長室を見て戻ろうと思った矢先、その隣の部屋からの声にドアの隙間から覗いて、良輔を見つけたのだ。
「ちょっとドジしよってな…」
 その言葉に、原因は“将士”であると納得する二人。
「人手、足りないんだったら」
「手伝いましょうか?」
「ホンマに!?」
 貴弘は素直な親切心から、祐人は入寮できるかもしれない嬉しさから、の言葉である。
「助かるわー。ほな!」
 説明の為、良輔は1年生二人を連れて、将士・暁幸の部屋へと戻るのだった。
  
「10枚で一組。一人が束ねて、一人がホッチキス」
 良輔が説明する。貴弘・恭平・暁幸が束ねて、祐人・クリス・健一郎がホッチキス。
「良ちゃ〜ん…」
 自分のロフトベッドで、将士がワザとらしく声を上げている。
「お前は“そこ”に居れ!」
「なんで?俺、生徒会の責任者よ」
「お前が手ぇ出すと、仕事が増える!」
 一斉に“プッ”と吹き出す、作業中の6人。
「チェッ!」
 拗ねる会長。
 カサカサ…。トントン…。カチャ。書類を束ねて、揃えて、ホッチキス。その作業が黙々と繰り返されていく。ホッチキスで止められた物を良輔が確認、そして、将士が見つけられなかったファイルの中にしまっていく。
「た〜い〜く〜つ〜」
「黙って寝とけ!」
 忙しい時に、将士ののんびり口調がイラッとくるのも分からないでもない。が、マイペースな将士は大して気にもしない。
「ねーねー。マシゴン」
 不意に上から呼ばれて、貴弘がびっくりして振り返る。
「な、なんで“マシゴン”!?」
「だーって、いつもそう呼ばれてるじゃん?」
 祐人に呼ばれるなら文句も言えるが、相手が3年生、ましてや生徒会会長となると逆らえない。
「そこのマンガ取って♪」
 他人には気付かれにくい音符付きのセリフ。
「…これ、ですか?」
「うん。サンキュー」
 取ってもらって、ベッドの上で読書。が、今度は、
「ねーねー。クリスティーヌ」
「Me!?」
「You!!」
 今度はクリスらしい(^^;
「“オペラ座の怪人”ですか!?!!」
 突っ込むクリスに、
「だって、今日のクリス、巨乳な…」
「はいはいはい!!なんでしょう?」
 将士のセリフを遮り、クリスが微笑む。
「そこの缶コーヒー取って♪」
「…これで」
「あくか、アホ!!」
 新しい缶コーヒーを手にしたクリスの手を差し止めながら、ベッドにいる将士を睨み付ける良輔。
「ベッドの上での飲食は禁止!!」
「良ちゃ〜ん!」
「甘えてもアカンわい!」
「クリスティーヌがダメなら、キョンキョン♪」
 指差された恭平が部屋を見回す。
「キョンキョンってば♪」
「お、俺!?」
 自分の事だと気付いた恭平がオロオロ。
「良ちゃん、意地悪だから」
「誰が“意地悪”やねん!?」
 あえて、無視!の将士。
「お兄ちゃんと違って、弟は優しいよね?」
「俺…。いや、ベッドでコーヒーはいかがなものかと…」
 ぷっ!と膨れる将士に、ウンウンと頷く良輔。
「クリスティーヌもキョンキョンも使えないなっ!」
「「その呼び方、やめて下さい!!」」
 2年生二人が同時に叫ぶ。
「だって、キョンキョン、可愛いし」
「は!?」
 悪寒が走る、恭平。
「クリスティーヌ、巨乳だし」
「なんやて!?」
 悪寒が走る、良輔。
 その悪寒を抱えたまま、良輔がクリスを振り返る。
 確かに“巨乳”だ。
「クリス!」
「Y…Yes…」
「何隠しとんねん!?」
 “巨乳って…お前…”とクリスを睨みつける良輔。
「な、何って…別に、何も…」
 慌ててとぼけようとするが、
“ニャー…”
 愛らしい一声に全員の視線がクリスの胸元に注がれる。
「クリス、子猫?」
 上から身を乗り出し将士が覗き込んできた。
「え、えぇ…。あ、いや。その…」
“ミャー…ニャー…”
 もう、誤魔化せない…。
「どうすんねん!?てか、何匹目やねん!?」
 そう、初めてではないのだ。
「クリスって、そんなに猫好きだったっけ?」
 やれやれと笑いながら健一郎が最後の一束をホッチキスで止めた。
「去年まではなかったやろ?」
 半ばあきれて良輔が問う。
「具体的には、4月の半ば頃から…だよね?」
 上から将士。
「貰い手が見付かるまで、また、寮で面倒見るんか…」
 しゃーないな…と良輔がクリスの懐から子猫を抱き上げた。
「すみません…」
 ペコリと頭を下げて、
「良かったな、ハッピー」
 良輔に抱かれた子猫の頭を撫でる。
「もう名前付いとんのか!?」
 驚きながらもやっぱり呆れる良輔。
「ハッピーって言うんだ、子猫ちゃん」
 最後の一部を止め終わった祐人が、良輔の腕の中に顔を寄せる。
「お前も猫好き?」
 貴弘が隣に並んで子猫の喉を指で撫でた。
「俺?うん、犬より猫派」
 良輔から子猫を受け取り、祐人が微笑む。
「猫ってさ、なんか、小悪魔的な女の子みたいじゃん?“誘っては身を翻す”みたいな…」
 そ、それは、それは…。
「越谷…」
「大人じゃん…」
 一斉に引く上級生達。
「え?俺、なんか変な事言いました?」
 首を傾げる祐人に、
「だって、越谷くん。こいつ、オスやで」
 諭すように恭平。
「お、小椋!!」
「突っ込むとこ、間違うてる!!」
 脱力の3年生達。その脇で、貴弘とクリスが申し訳なさ気に頭を下げている。
 とりあえず片付いた、予算委員会の報告資料。
 一騒動の寮の夜が、幕を下ろそうとしていた。




…はい?
クリスと恭平の会話が“???”ですって!?
自分で調べて下さい(笑)
これも勉強です♪

2008/04/16 (Wed) 21:37
点 呼(前編)

“コンコン”
 午後8時50分。
「おう!開いとるで!」
 常緑学園・学園寮寮長室のドアをノックする副寮長・長谷川健一郎が、中から聞こえる寮長の声にドアを開けた時、寮長の吉澤良輔は窓のそばに立っていた。
「良ちゃん、そろそろ…」
「分かってる」
 頷きながらほくそ笑む良輔。それを見て、健一郎が首を傾げた。
「外に何かあるのか?」
「今さっきな…」
 窓に背を向け、肩越しに親指で外を指しながら、良輔が笑う。
「今さっきな、クリスが出て行きよった」
「また!?」
 健一郎が、思わず窓の外に身を乗り出すが、既にクリスの姿はない。
「こんな時間に出て行ったんじゃ、点呼には間に合わないな…」
 “やれやれ”と息をつく健一郎を横目に、良輔はクスクスと笑いが止まらない。
「楽しそうじゃん、良ちゃん」
 健一郎の問い掛けに、良輔が自室の床越しに2階を指差す。
「そやかて、お前。クリスが間に合わへんって事は、又あいつの必死の言い訳が見れるんやぞ!」
 本当に楽しそうに笑う良輔。健一郎にはさっぱりだ。
「そんなに面白い事?」
「いや、もう!あいつ、小っちゃい頃からめっちゃポーカーフェイスでな。変に頭が良かったさかい、周りから浮いてた所為もあって、鉄面皮の人見知りの無関心やってん」
「…それ、“子供”っぽくなくない?」
 健一郎が眉をしかめる。
「やろ?そやから、“今”のあいつがなんや可愛いて…」
「“兄”だねぇ」
「“兄”やもん。半年前からやけど」
 肩を竦める良輔の横で健一郎が腕時計を見た。
「5分前。そろそろ行く?」
「そやな、行こか」
 名簿を挟んだバインダー片手の健一郎を伴って、良輔は部屋を出るのだった。
  
 常緑寮寮長は毎年前任の寮長からの指名で後任が決まる。副寮長は、当期寮長の指名だ。指名の基準は、統率力・人望・そこそこの遊び心の3点が主要であるが、諸々の細かい所はその都度の寮長の好みによるところが大きい。良輔が選ばれた理由は、その3点もさることながら、サッカー部のエースであり、近所の女子高生の人気も高い…という実にどうでもいい事がポイントだったりする。加えて、一足先に決定していた生徒会役員、このメンバー…特に会長の将士…を扱えるのが決め手となった。
「…そういえば…」
 1階への階段を下りながら、副寮長の健一郎が思い出したように名簿の一番最後をトントンとペンで叩いた。
「なんや?」
「ここ…」
 最後の行には“山上将士・斉藤暁幸”の文字。
「ここ。なんか賑やかだった…」
「また、生徒会の仕事持ち込んどんな」
「…多分ね…。マー坊の“アッキー…”って声が聞こえてたから」
「2年生に甘えるなっちゅーねん!」
 笑う良輔。
「点呼の時点で終わってなさそうだったら、手伝いにいくわ。多分、明日の部活予算の書類だろうから」
「“副長”も大変やな…」
 “副会長”と“副寮長”。まとめて“副長”。
「会長が将士(あれ)だもん。しょうがないよ」
「やな」
 そう言って顔を見合わせるとクスクスと笑う。悪気はない。あー見えて結構やり手だし、見た通り不器用だし…。愛すべき“会長”なのだ、将士は。
“トン!”
 最後の一段を同時に下り、玄関の施錠を確認。
「鍵は、OK…と」
 良輔が確認し、健一郎が名簿の上部欄外にレ点チェックをいれると、それを待っていたかのように寮内に音楽が流れた。9時の合図だ。
「点呼、開始!」
 健一郎の声で、点呼が始まった。
  
「…えー匂いやな、益子」
 1年生の最後の部屋の前で、点呼を取るより先に良輔がニヤリと笑った。
「え!?」
 ドアを閉め忘れたのかと慌てて振り返る貴弘。
「マックか?」
 “お前自身に匂いが染み付いとるわ!”と笑う良輔。
「はい…。ポテトを少々…」
 バインダーに隠れてクンクンと鼻を動かしていた健一郎が、チラリと良輔を見る。
「寮母さんの晩飯食うて、更にポテトか…。付き合いも大変やな…」
「えぇ…。って!?」
「メガマックは美味かったか?」
 とドアの向こうに声をかける良輔。
「越谷!バレバレやぞ!!」
 “あ!あ!”と慌てて伸ばした両手を良輔と健一郎に振る貴弘。同時に2階で物音がして、顔を上げる健一郎。
「どないした?副長?」
「…いや、なんか、音が…」
 “気のせいだよ、きっと”と貴弘を押し退けている最中の良輔に、続けて下さいとばかりにペンを持つ手を差し出す。
“カチャ…”
「越谷ぁ!隠れてもムダやぞぉ!」
 …が…
「ども!」
 隠れてない(^^;
「開き直ってどないすんねん!?」
「エヘヘ…」
「ちょっとは反省とかせぃ!!」
 笑って誤魔化す祐人に、呆れる良輔。その隣で、“益子貴弘”の欄にチェックをし終えた健一郎が、ペンの尻で頭を掻いた。
「いっその事、ここに入っちゃえばいいじゃん」
「え?」
 貴弘と祐人が同時に健一郎を見る。
「それもそーやな…」
 んー…と考える良輔。
「どうせしょっちゅう来てるんやし、入寮の申請するか?」
「でも、俺、すっごい近所からの通学なのに…」
「関係あらへん。要は、両親と当人の希望やねんから」
「1年生は入寮者も少ないから、ご両親の承諾さえ出れば問題無いと思うよ」
 寮長と副長の言葉に、祐人の顔がキラキラと輝く。
「点呼終わったら、俺の部屋に来い。申請書と今日の宿泊願いの用紙、渡すさかい」
「はいっ!」
 嬉しそうに笑う祐人の横で、ホッとひと息の貴弘。
「良かったな。気苦労がひとつ減って」
 そんな貴弘に、副長が囁いた。
「…増える気がするんですけど…」
 その言葉にムッとした祐人が膨れっ面で貴弘の頬を引っ張る。
「どーゆー意味!?」
 寮長と副長は既に2階へと階段を上がり始めたところ。
 貴弘の予想は…いかに!?
  
「れ?」
 2階の一室。寮生とネームプレートを確認中の良輔の肩をツンツンと健一郎がペンで突付いた。
「なんや?」
 振向く良輔に、黙って奥の部屋を指し示す健一郎。
「はぁ!?」
 良輔の奇声に、点呼中の2年生二人が思わず抱き合う。笑顔を滅多に見せない寮長。サッカー中の真剣な眼差しは女子高生に人気絶大なのは先程も述べた通りだが、ゲームメイクで見せる、何事にも動じないクールな横顔は校内の憧れの的なのだ。
 そんなクールな寮長の“奇声”である。ビビらないわけが無い。
「行くぞ!健一郎!!」
 その後の3室の点呼をとっとと済ませ、問題の一番奥の部屋へと到着した寮長・副寮長。
「なんで居らへんのや!?」
 入り口のネームプレートには“クリストファー・アンダーソン 小椋恭平”の文字。
「恭平!!」
 半開きのドアを勢い良く全開にして、明かりの点いている部屋に押し入る。
「お前、何…やっと、ん…。……………居らん」
 室内はモヌケの殻。
「良ちゃん!」
 窓に掛かったカーテンが風で揺らいでいるのを発見した健一郎が、良輔の肩を叩いた。
「…まさか…」
 走り寄る良輔。即座にカーテンを開ける。
「…あははは…」
 片手にカーテンを掴んだまま笑い出した良輔に、健一郎が歩み寄り、
「…抜け出した?…一緒に…?」
 首を傾げつつも、名簿に赤でバッテン。
「言い訳が考えつかんかったんやろな」
 笑う良輔の視線の先には、風に揺れる縄梯子。
「あ、そっか!」
「なんや、健一郎?」
「さっき、1年生の点呼とってる時に上で物音がしたな…って」
 そう。それは、きっと、慣れない縄梯子を下りていく恭平の物音。
「考えよったな」
 クスクスと笑いながら、良輔が、その縄梯子を手に取った。
「どうする気?」
「ま、見とけ」
 スルスルとまとめて抱え込み、そのまま撤退。
「…真上の部屋は…、マー坊のとこか…」
 クックックッと笑いを噛締める良輔を見て、
「あ!俺、分かっちゃったかも…」
 健一郎も笑い出す。
「良ちゃん、悪戯、好きだもんな」
 分かっていて止めようとしない健一郎もなかなかの悪戯好きである。
  
 残る点呼は3年生フロアのみ。
 続きは、次回!
 乞うご期待!!



2008/04/07 (Mon) 23:37
生徒会 ふたり

“カチャ…カチャ…”
 ホッチキスの音が、部屋に響く。
「…終わりました」
 ホッチキス済のプリントの山を束ね、常緑学園高等部・生徒会書記の斉藤暁幸(さいとう あきゆき)が、隣にでーん!と座っている同・生徒会会長、山上将士(やまがみ まさし)に向き直った。
「あ!アッキーこれもお願い
 会長が思い出したようにファイルからもう一束取り出して、暁幸に差し出す。セリフの語尾に音符やらハートやらの気配を感じるも、その抑揚のない話し方に“気の所為だよな”と首を振る暁幸。
「はい、はい」
 終了した分をトントンと揃え、会長から10枚程のプリントを受け取り、
“カチャ”
 とホッチキス止め。
「なんで、ここまで仕事を持ってくるんです?」
 やれやれ…と暁幸が溜息をついた。
 ここは、寮の一室。部屋の前に掛けてあるネームプレートには『山上将士・斉藤暁幸』の文字。
「だって、遅くまで学校にいたくないじゃん?」
 膨れっ面の暁幸をクスクスと見ながら、将士が答える。
「アッキーは生徒会室でやりたい訳?」
「そりゃそうでしょう!」
 ドサッ!とプリントの束を将士の前に置く。
「学校だと、副会長だって他の生徒会メンバーだっているのに…」
「副会長、いるじゃん」
 副会長は副寮長と同一人物だったりする(^^;
「寮に帰ったら、副寮長としての仕事が忙しくて、手伝ってもらえないじゃないですか!」
 “結局、俺一人で貧乏くじなんだから!!”と2年生の暁幸が3年生の将士を睨みつけた。
「部屋割りだって、俺、ホントだったら2階の2年エリアなのに…」
 3階建ての常緑寮。1階が1年生、2階が2年生、3階が3年生の部屋になっている。
「アッキーが2階にいたら、仕事、はかどらないじゃん?」
 ニッコリ笑いながら、置かれたプリントを入れるファイルケースを探す将士。そう。本来なら2階エリアにいる筈の暁幸を“仕事の潤滑化の為”とかなんとか言って、3階…しかも、自分の部屋への同居を許可させたのは、会長本人だったりするのだ。
「だから、“貧乏くじ”って言うんです!」
「そーぉ?」
 ムキになる暁幸とは対照的に、相変わらず抑揚のない話し方な将士。
「授業で分かんなかったとことか、教えてるじゃん?」
 暁幸の苦手科目は“世界史”である。
「副会長がね!」
 将士の苦手科目も“世界史”である。
「夜食とか、こっそり、一緒に食べてるじゃん」
 夜の10時以降の飲食は禁止である。
「買出しは俺でしょ?」
 勿論、外出も禁止。
「毎朝…」
 朝は6時起床。
「起こしてますね。俺が!」
 暁幸は、目覚ましより早く起きる。
「…えーと…えー…と…」
 抑揚の無い声同様、寝惚けたような表情のまま、利き手の人差し指でコリコリと額を掻く将士。
「まったく…」
 そんな将士を見て、暁幸が笑い出した。
「もう、いいですよ」
「アッキーぃ…」
「なんですか?」
「見捨てないでね…」
「捨ててませんよ」
 だるそうな口調の端に、自分に対する好意が見え隠れするのに気付き、暁幸がクスッと声を漏らす。
「あ!アッキー、俺の事、バカにした!」
「してませんよ」
「役に立たないって思ってる!」
「思って…る、かも…」
 ペロリと舌を出す暁幸を見て、将士が膝を抱え込む。
「…いーんだ…。後で、健ちゃんと良ちゃんに言いつけるから…」
 “健ちゃん”は副寮長、“良ちゃん”は寮長。この二人を“ちゃん付け”で呼ぶのは、将士くらいだ。
「言いつけてもらっても結構ですけど、味方はしてもらえないと思いますよ」
 そりゃそうだ。
「アッキー」
「はい?」
「たくましくなったね」
「会長のお陰です」
 にっこりと笑顔で言い返したところで、
♪♪♪♪♪
 午後9時。点呼の音楽が流れた。
「会長!」
 立ち上がる暁幸に、
「まだ平気だよ」
 と缶コーヒーを飲む将士。
「どうせ、1年生からじゃん、点呼。ここまで来るのにはまだ当分かかるさ」
 3階の端っこの部屋なのだ、ここは。その奥に寮長・副寮長の個室があるだけだから、点呼の際は実質上、ここが一番端となる。要するに、一番最後の点呼なのだ。
「俺、先に出ときますから」
 クルリと向きを変える暁幸を見て、将士が慌てて、缶コーヒーを飲み…、
「俺も、行くってば!」
 …飲めなかったりして…(^^;
「あ!」
 将士の顎からしたたるコーヒー。
「何やってんですかっ!?」
 ダッシュで戻る暁幸。その目の前には、無残にも茶色のドット模様のプリント達。
「なんでケースに入れてないんです!?」
「…見当たらなくて…」
 苦労が水の泡。
「か〜い〜ちょ〜お〜!!」
「ごめん!ごめんよ、アッキー!」
 抑揚のないまま必死に謝る将士と、脱力感いっぱいの暁幸。
 
 もうすぐ、点呼がやってくる。




3年生と2年生のコンビです。
バ、バカじゃないのよ!ちょっと感情の起伏がわかりにくいだけなの、将士くん。
でもって、仕方ないからしっかり者になっちゃっただけなの、暁幸くん。
ちなみに、寮長と副寮長は将士くんとはクラスメートです。
ま、その辺は追々…。

2008/04/05 (Sat) 00:17
2年生 ふたり

「…クリス。…クリス!」
 常緑学園・学園寮の一室で、2階の窓から顔を出して小椋恭平(おぐら きょうへい)がルームメイトの名を呼んでいる。
 高校2年生の春、諸々の事情で大阪からこの学園に編入してきた恭平。超難関と言われている常緑学園の編入試験をトップの成績で合格した。その所為か、入学当初は周りから敬遠され浮いていたのだが、それも束の間、寮でのルームメイトが結構な社交家で、いまやすっかり溶け込んでいる。
「クリスってば!!」
「すぐに戻るよ!」
 各々の部屋の明かりだけが頼りの窓の下、ルームメイトのクリストファー・アンダーソンの茶色かかった金髪が光る。
「てか、すぐに点呼やで!!」
「Understand! I come back immediately!」
 上の訳?そんなもの、自分で調べなさい!
 色んな家庭の優秀なお子様方をお預かりしている学園寮。規律が厳しい事でも有名であるのだ。であるからして、寮内点呼は午後9時と決まっている。9時になるとそれぞれの部屋の前に立って、点呼にくる寮長と副寮長を待つのだ。寮長が部屋の前にあるネームプレートと立っている寮生の確認をして、副寮長が名簿にチェックを入れる。
 今、午後8時45分。
「間に合う訳、ないやん!!」
 規律が厳しい分、守れない輩も多数いるわけで…。2年生の中では、クリスは常習犯と言える。
「なんで俺がフォローせなあかんねん!?」
 度々、点呼に間に合わなくなるクリスのフォローの為についた“嘘”も、そろそろネタ切れだ。
「こないだのは、厳しかったもんな…」
  ――――――――――――
「クリスは?」
 寮長の吉澤良輔(よしざわ りょうすけ)に問われ、
「え…えーと…」
 苦し紛れに恭平の口から出た言葉…。
「クリス、は…。その…ト、トイレ、です」
「トイレ?」
 睨むように見詰めてくる寮長。
「トイレでも、返事くらいは出来るやろ?」
 ちなみに寮長も大阪出身。ついでに言うと、恭平とは元々“従兄弟”。今は“兄弟”という間柄である。苗字が違うのは、高1の途中で親が再婚した為、面倒なので恭平が卒業するまでは夫婦別姓という手段をとったからである。
「クリースッ!」
 トイレに向かって呼びかける寮長。
「そ、それが…その…エライ下痢で…とても返事できる状態ちゃうねん」
「ホンマけ?」
「う、うん」
 “エヘヘ”と笑う恭平に、良輔が隣にいる副寮長の長谷川健一郎(はせがわ けんいちろう)に、指示。
「クリス。バツ!」
「了解」
 寮長の言葉に、副寮長が名簿にバツ印を付ける。
「良輔!!」
 恭平が慌てるが、
「お前、嘘つくの下手やな」
 ケケケッと額を弾かれ恭平が膨れた。
「ま、お前が他人(ひと)の為に嘘つくなんて。その成長には、クリスに感謝やな」
  ――――――――――――
「…どーすんねん!? もう、ネタないで…」
 どうせネタを用意した所で、寮長にはバレてしまうのだから、“ムダな事”だと気付けよ、恭平!
「…あと、5分やん…」
 部屋の時計を見て、再び窓の下を見る。窓枠に掛かった縄梯子がゆらゆらと風に揺れているだけで、人の気配は無い。
「アカン!…絶対、間に合わへん!!」
 数式は楽勝で解けても、上手い言い訳は思いつかない。…てか、どうせ“ムダ”だって!
「“トイレ”も“熱が出た”も使えへんし…」
 だから、“ムダ”だって!
「んー…」
 恭平ーっ!!…って、聞こえないか…(^^;
「ん゛ーっ……」
 と、恭平が考えてる間に9時の合図の音楽が寮内に流れてきた。
「…タイムリミットやん、クリス…」
 トボトボとひとりで部屋の外に立つ恭平。
「点呼、開始!」
 副寮長の声が階下で響いた。
「…俺、絶対、胃炎になるわ…」
 1階の1年生の点呼を聞きながら、恭平が腹に手を当てるのだった。




はい!
高等部の2年生です!
“例のふたり”がこういう形になりました。
ちなみに、クリスくん、国籍がふたつあります。
日本名は『各務原 瑛(かがみはら あきら)』です。
えぇ、本編とは何の関係もありません(笑)


2008/04/03 (Thu) 21:25
1年生 ふたり

「…って言ったって、分かんないもんは分かんないじゃん?」
 夕暮れの校門をくぐりながら、常緑学園高等部・1―B 越谷祐人(こしがや ゆうと)が膨れっ面を隣にいる 同・益子貴弘(ましこ たかひろ)に向けた。
 そんな祐人を見ながら、貴弘が溜息をつく。
「お前、“分かる努力”してる?」
「何、それ?」
 “必要?”と覗き込んでくるその顔に、また溜息。
「そのまま憶えられるほど“お利口”じゃないだろ?」
「そんな事ないよ!」
 自分の評価を否定する祐人。
「マシゴンはしてるの?」
「その呼び名、イヤだって!」
 “マシゴン”と呼ばれ、貴弘が祐人の額をビシッと弾いた。
「ポ○モンみたいでイヤだって、何回言ったら分かるんだよっ!!」
「えーっ!?可愛いじゃん。ポ○モンみたいで!」
「お前とは、ポ○モンに対するイメージが食い違ってるらしいな…」
 そして、またもや溜息。
「きっとさ、普段は大人しくて優しいんだけど、俺がピンチになるとウガーッ!って怒り出して、あっと言う間に敵を炎に包んじゃうんだよ♪」
 …これは、今、自分が古典に対してピンチだから、優しい貴弘くんに助けて欲しい…と…?
「俺、“炎系”なんだ?」
「うん。内に秘めたる情熱の炎!」
「ポ○モンマスターのクセに、ピンチになるとポ○モンに助けてもらうんだ?」
「まだ修行中だもん」
「なんだそりゃ!?」
「だからさ…マシゴン…」
 祐人が貴弘のジャケットの端をツンと引っ張った。
「今日の古典なんだけどさ…」
(ほら来た!)
 予想通りである。
「ご褒美は?」
 協力するかどうかは“報酬”によりけりだ。
「んーと…」
 祐人の視線が宙を泳ぐ。
「明日の英語の小テストの予想!…じゃダメ?」
 ちなみに、益子くん、英語はあまり得意ではない。その上、祐人の予想はとてつもなくよく当たるのだ!
「了解!!」
 冗談半分、敬礼を返す。目の前には綺麗な夕焼け空。
「で、どこでやんの?」
 貴弘が“俺、こっち”と左の道を指差す。左に曲がって突き当たり、常緑学園の寮がある。貴弘は寮生。祐人は近所からの通学生。
「あ!」
 祐人がなにやら思い出す。
「マシゴン。マック、行かない?」
「今から!?なんで?」
 唐突過ぎて付いていけない。
「今日さ。両親共、残業なんだ。で、朝、“晩御飯、どうする?”って母さんに聞かれて、“適当!”って言っちゃったから、夕飯、なんにも無いんだよね」
 エヘヘと笑う祐人。
「小銭ならあるから、マックかなって…。行かない?」
「それも“ピンチ”?」
「うん!…行かない?」
 そう言って、貴弘の顔を覗き込む。
「今から…ねぇ…」
 腕時計を見る貴弘。今から行って、食べて…だと、結構遅くなる。
「テイクアウトして、マシゴンのとこで食べながらだと、問題ないじゃん?」
 1年生の寮生は少ない為、二人部屋のところをひとりで入っている者が殆どなのだ。貴弘も例外ではなく、二人部屋を悠々とひとりで使っている。
「そりゃそーだけど…」
「行かない?」
 結局は一人になるのが淋しいのだ、祐人は…。
「分かった。行く」
 “仕方ねーな”と笑いながら貴弘が頷いた。
  
 夕焼け空が赤味を増し、近付く夕暮れを知らせている。
 二人は駅前のファーストフード店目指して駆け出すのだった。





高等部の1年生ふたりです。
え?
例の“ふたり”ですか!?
それは、こ・れ・か・ら♪

何の事もない、普通の学校生活がダラダラと続く予定です。
でも、普通の会話って…好きだわ(笑)

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