「…と言うわけで…。」
夜の学生寮の食堂に寮長である良輔の声が響く。
「中途半端な時期ではありますが、この度、寮生が一人、増える事となりましたので、その歓迎会を行います!」
総勢50人ほどの常緑寮々生がワラワラとテーブルに群がる。食事は寮母と中・高等部の学生食堂の栄養士兼調理人←通称“おばちゃん”がたった二人で手掛けた立食形式の物だ。
「ジュース、飲み放題やからゆーて、アホみたいに飲むなよ!」
乾杯直後、良輔の声がジュースに群がる生徒の群に飛んだ。ちなみに、そのジュースは将士から。別に生徒会費を横流ししている訳ではなく(笑)、純粋に将士のポケットマネーから出ているのだ。こう見えて、結構いいとこのお坊ちゃまだったりする。
「お菓子は、ちゃんと飯を食うてからっ!!」
今度は、別のテーブルに山積みにされているスナック菓子に群がる別の軍団に声が飛ぶ。お菓子類は、新入寮生の両親からの心づけ。
新入寮生?
そんなの決まっている。
「めでたく、“寮生”だね。」
将士がアイスコーヒーの入った紙コップを差し出す。
「ありがとうございます!」
満面の笑顔でコーラの紙コップをコツンと合わせる新入寮生の…。
「越谷ぁ…。」
越谷祐人である。
「越谷ぁ…。やっぱ、益子と同室?」
同じクラスの北村充宏が背後から絡んできた。数少ない1年生。ルームメイトが出来る事が羨ましいのだ。
「うん。入る前から寮長達も言ってたし。」
「淋しいんだったら、北村も誰か誘っちゃえばいいじゃん♪」
お気楽なお誘いを掛けながら、将士が北村のコップにコン!
「“誰か”って?」
「藤宮、とか?」
しれっと答える将士に、
「なんで知ってんスか!?」
親友の名前を出されて驚く北村。
が、当の将士はニコニコ笑いながら既に隣の輪の中だったりするのだ。
「なんで…てか、どこからの情報だよ???」
首を傾げる北村。
「そーいや、俺の事も“マシゴン”って…。」
妙に納得しながら頷く貴弘に、
「それは、みんな知ってる。」
「越谷が通る声で“マシゴン”ってさんざん呼んでるじゃん!」
周りの1年生が一斉に突っ込んだ。
――――――――――――
「お前ん時も、中途半端やったな…。」
コーヒー片手に良輔が2年生の輪の中へと入って来た。
「“やんなくていい”って言ってたんだよね?」
いつの間にやら将士もいる。
話の中心は恭平。
今年に入ってすぐの編入。1年生の三学期からの入寮となった。“鉄面皮の人見知りの無関心”な恭平は、自分ひとりの為に行われる“入寮歓迎会”をひたすら拒んだのだ。
「今からだと、考えられないな。」
クスクスと副長の健一郎が笑う。
「ルームメイトのお陰じゃないですか?」
暁幸が恭平に微笑みかけ、
「“お陰”って…語弊がない?」
恭平がミルクティーを飲みながら、暁幸のルームメイトを指差した。
昨年、生徒会が任期を交代してから移動した今の寮室。同学年で同室の筈が、なぜか一学年上の将士と同室に…。原因は将士の『仕事の潤滑化の為』という名目であった。
「ちゃうちゃう!正確には“だって、健ちゃん副寮長も兼ねてるから、結局、俺、ひとりぼっちじゃん!”」
良輔が将士そっくりに首を振ってみせる。その横で、“そうそう!”と健一郎が笑いながら続ける。
「“誰かと一緒じゃなきゃ、生徒会長、やめちゃうからねっ!”」
「…言ったっけ?」
とぼける将士。
「言った、言った。絶対、言った!」
「どないな脅し文句やねん!?っちゅーねん。」
ケラケラ笑う寮長・副寮長。
「でも、通ったんやろ?」
と、恭平。
「まーな。こいつ、ホンマにやめかねへんさかいな。」
眉をしかめる良輔の横で将士が密かに膨れる。
「な、暁幸。語弊があるやろ?」
「確かに…。」
“お陰”ではなく、“所為”なのだと頷き合う二人であった。
さて、1時間が経過し、宴も酣(たけなわ)。
「おぉおっ!凄ぇ!!」
盛り上がりを見せるのは、食堂カウンター前の生徒会会長・山上将士。
「あいつは“かくし芸”何個持っとんのや!?」
呆れつつも笑っている寮長・良輔。
カウンター前では、将士のマジックで盛り上がっていた。
コインから始めて、食券やらコップやら、その辺にあるもので器用にこなしていく。
「帝王学に“かくし芸”の項目も入ってんじゃないの?」
ジュースのおかわりを注いだ紙コップを傾けて、副長・健一郎がクスクスと笑っている。ちょっとした財閥の御曹司の将士。物心付いた頃には“帝王学”も学んでいたりするのだ。
「ク〜リ〜ス〜♪」
相変わらず抑揚のない話し方で、将士がクリスを手招き。自分のコーラの入ったコップを恭平に渡して、将士のところへ向かうクリス。
「あのさ…。」
ゴニョゴニョと耳打ち、
「OK?」
「Yeah!」
「…と、もう一人欲しいな…。」
グルリと見回す将士の目に、紙コップをふたつ手にした恭平の姿。
「キョンキョ〜ン♪」
ビクッ!と肩を動かし驚く恭平。
「お気の毒さま…。」
暁幸が笑う。ま、ここは逆らわないで素直に従った方が賢い選択と言えるだろう。
恭平が自分の持っていたコップをふたつ、暁幸に預けて歩き出す。
「えっとね、クリスここ。キョンキョンはここね。」
立ち位置を指定され、二人並んで立つ。
「これから、この二人をナイスバディなGirlに変身させます。」
将士の言葉に盛り上がる寮生。慌てる恭平。微笑むクリス。
「ク、クリス…。」
超小声で、恭平がクリスを見る。が、
「It is all right.」
クリスにウインクされ、深々と溜息。恭平は腹をくくった。
「いくよ〜♪ は〜い。ワン・ツー・スリー!!」
将士の合図と同時に二人の胸が“巨乳”になる。
「おぉお!!!!」
どよめく食堂。
「ぅ、ぅわっ!!わっ!!」
突然の出来事に恭平が動揺。自分の胸を触って、
「う、動いたっ!!」
また、動揺。
「な、何?何!?」
パニくる恭平のジャージの胸元から、
『ニャー…』
転げ落ちる子猫。
「危ないっ!!」
咄嗟にクリスが手を出し、受け止める。
「ね、猫???」
恭平と同時に寮生もびっくりやらガッカリやら…。
「気をつけろよ、恭平!」
全くもう!とクリスが自分の胸元からも子猫を出して二匹を愛(いと)しそうに撫でる。
「クリースッ!!」
人垣の向こうから、良輔の怒鳴り声。
「危なかったですねぇ、クラリス。」
受け止めた子猫に微笑むクリス。
「“メス”かいっ!?」
ツッコミどころはそこじゃないのよ、恭平くん。
「また、増えとんかいっ!?!?」
ヅカヅカと人を掻き分けながら近付く良輔。
「…クリス!マー坊!!」
が、怒る良輔を片手で制し、将士が珍しく大きな声を出した。
「…とゆー事でぇ。クリスの懐に抱(いだ)かれた“ハッピー”とキョンキョンの懐に抱かれた“クラリス”。知り合いのお姉さまでも伯母さまでも、飼いたいという方がいらっしゃいましたら、俺まで連絡下さ〜い♪ 勿論、お届けは、本人達がじかに伺わせていただきま〜す♪」
「What!?」
「はい!?」
思わず振向く2年生二人。
「当たり前じゃん。その位の“特典”がないと貰ってくれないよ。」
「“特典”…?」
「俺等が?」
真ん丸な瞳の二人に、将士が頷く。
「使える物は最大限に利用しなくちゃ。基本だよ。」
…なんの?
とにもかくにも、きっと子猫の行く先もすぐに決まる事だろう。
…なにしろ、“常緑学園高等部・人気ランキング2年生の部”のツートップのふたりである。 by将士くんリサーチ(笑)
――― さて、 盛り上がるカウンター前とは裏腹に、
「今度はメスの子猫ちゃんだってー。」
1年生の輪の中心で、ケラケラとご機嫌な笑い声。
「な、何?」「どーしたんだ、越谷?」
そのご機嫌すぎる様子に同級生がオロオロと取り囲む。
「ハッピーは男の子で、今度は女の子だからクラリス!お姫さまの名前だねー。」
ケラケラクスクスと笑う祐人。
「アルコールなんて、ない、よ、な?」
北村が蓋の開いているペットボトルの山を見回す。
「あ!」
貴弘が何かに気付いた。
「祐人、お前、何飲んでた?」
「俺ぇ?」
ヘラヘラと笑いながら、一つペットボトルを指差す祐人。
「コーラを飲んでおりましたっ!」
エヘヘ…と敬礼。
あちゃー…と貴弘が頭を抱え込んだ。
「何?」「コーラが何かあんの?」
「こいつ…。」
頭を抱えながら貴弘が祐人を指差す。
「こいつ、コーラ駄目なんだよ。」
その言葉に周りが首を傾げる。
「普通に美味そうに飲んでたぜ。」
「こいつさ、コーラで酔うの。」
ざわつく1年生。
「マ、マジ…?」
「見ての通りだよ。」
視線の先には“いい気分”な越谷祐人15才。
歓迎会は、まだ、序の口である。
あ、あら

2ヶ月も空いちゃったのね(^^;
話しは幾つかできていて、常に頭の中で動いてるから気付かなかった…
すみませんね…
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